アフラトキシン

1960年にイギリスで10万羽以上の七面鳥が中毒死した事件で原因となったピーナッツミールから発見された物質。主な産生菌であるAspergillus flavusのtoxinなのでaflatoxin(略称AF)。

  • 種類

分子構造の違いにより10種類以上の関連化合物が存在しており、AFB1が汚染頻度・汚染量・毒性において最も影響が大きい。他にAFG群、AFB群に汚染された飼料を摂取していたウシの乳より発見されたAFM群(M=milk)、微生物や動物の肝臓でAFB1代謝されてできるAFL(aflatoxicol)がある。
急性毒性はAFB1>AFG1>AFB2>AFG2であり、発がん性はAFB1>AFL>AFM1>AFQ1>AFG1であるとされている。

  • 産生菌

主要産生菌はAspergillus flavusAspergillus parasiticusAspergillus nomiusであるが、特にA. flavusでは同種であっても菌株によって産生するとは限らない。
また日本で古くから利用されてきた麹カビAspergillus oryzaeからのAF産生は確認されていない。

  • 産生条件

相対湿度99%でAF産生は12℃〜41℃でおこる。30℃では相対湿度83%で産生され、最適条件は30℃前後、相対湿度95%以上。つまり高温多湿状態がAF産生に適している。酸素濃度が減少するとAF産生量は減少する。
二次代謝産物であるマイコトキシンは菌体の成長後につくられるのが一般的だが、AFの場合は菌体の生育開始すぐに産生がはじまるため、短期間に多量のAFが産生される。
穀類などへの自然汚染の場合、ロット全体にまんべんなく分布しているのではなく、数%の粒だけが高濃度にAFを含み、他の90%超についてはAFを含まないことが普通である。

例えばロット全体の平均濃度が5ng/gのピーナッツで、0.03%の粒だけがアフラトキシンを含み、汚染粒一粒に1,100microgのアフラトキシンが含まれていたという報告がある。(引用元として 山本勝彦:粒上農産物のマイコトキシン検査におけるサンプリング方に関する統計学的考察, 食衛誌32, pp.89-92(1991))

との記述が『食品安全性セミナー5 マイコトキシン』(中央法規出版 2002)にある。

  • 毒性

哺乳類、鳥、魚などに対して強い急性毒性をもち、ウサギ・ネコ・ブタ・イヌなどでLD50(半数致死量)が1mg/kgを切るとされている。また発がん性はIARC*1の評価でアフラトキシン類としてGroup 1(ヒトに対して発がん性あり)とされており、発がん性においては天然物質で最も強い。主要標的臓器は肝臓である。

ヒトでは主に熱帯地方での汚染トウモロコシによる中毒が多い。急性毒性は黄疸、発熱、浮腫、腹水、嘔吐などの肝障害を起因とする症状が出、また疫学調査により原発性の肝臓がんの原因と疑われている。

  • 食品での規制

日本では食品に対しピーナッツ、ピーナッツ製品、ピスタチオナッツ、アーモンド、ブラジルナッツ、カシュナッツ、ヘーゼルナッツ、マカデミアナッツ、クルミジャイアントコーンにAFB1の暫定基準10ppb(=ng/g)が設定されているが、その他食品であっても検出量がこれを超えた場合食品衛生法第六条

次に掲げる食品又は添加物は、これを販売し(不特定又は多数の者に授与する販売以外の場合を含む。以下同じ。)、又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。
一 腐敗し、若しくは変敗したもの又は未熟であるもの。ただし、一般に人の健康を損なうおそれがなく飲食に適すると認められているものは、この限りでない。
二 有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるもの。ただし、人の健康を損なうおそれがない場合として厚生労働大臣が定める場合においては、この限りでない。
三 病原微生物により汚染され、又はその疑いがあり、人の健康を損なうおそれがあるもの。
四 不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの。
(昭二八法一一三・昭四七法一〇八・平一一法一六〇・一部改正、平一五法五五・旧第四条繰下・一部改正)

第二項違反として処理される。アメリカではAF総量(AFB1、AFG1、AFB2、AFG2)として20ppbが設定されている。毒性・産生量ともAFB1が特に大きいため、基準としては日本のものの方がシビアである。また欧米を中心に、乳製品等に対しAFM1の規制も行われており、こちらは小児の暴露可能性があるため、概ね牛乳中で1ppb以下の基準を設けている国が多い(日本は未規制)。

日本ではAF産生菌の数が少なく、気候条件も鑑みると国内の殆どで汚染が起きる可能性は低いと思われる。(南西諸島については温暖湿潤なためわからない)
ただし汚染された輸入食品が流通する可能性があるため、検疫所*2が輸入品を水際で、地方衛研などが輸入品・国産品を市場でモニタリング検査を行ってチェックをしており、場合によっては命令検査として輸入荷口の全ロットを検査している。
今まで汚染が確認されたものとしては、ピーナッツ、ピスタチオ、ブラジルナッツ、ゴマ、トウモロコシ、ハトムギ、製餡用雑豆、ナツメグ、唐辛子、パプリカ、バジルシードなど。

EUでももちろん問題になっていて、RASFF*3でも毎週のようにalertが出ていたりする。

  • Diamond Pet Food社(アメリカ)のドッグフードへの汚染事件

2005.12.22に自主回収届け(という表現でいいのかな)。年明けにはイスラエルでも死亡の報告あり。
詳しくは尊敬するid:uneyamaさんのところ(食品安全情報blog)に要約と原典へのリンクがあります。
第一報から第三報(ProMED-mail)
FDAのアラート
イスラエルでの事例第一報(ProMED-mail)
イスラエルから第二報とFDAからの(ProMED-mail)

第一報によるとイヌの場合は発がん性は確認されておらず、肝臓に対する急性毒性が主のよう。
リコール商品が多岐に渡っているので、原料(コーン?)のいわば「上流」での汚染が原因でしょうか。

事態の収拾にあたった/あたっている(?)米コーネル大学のニュース
1/6以降更新されていないのは何故だろう。

日本で広めたのはid:uneyamaさんではなく
きっこのブログ
msn毎日インタラクティブ
だと思われ。(いいかげんネット時代なんだから原典のURLつけてほしい…ググれば一発で出るから隠してもしょうがないのに)

恐怖感を煽る人が多いですが、とりあえず国内には正規では入ってきていないのでビビる必要はないでしょう。並行輸入で買ったものとかはLotの確認をした方がいいと思います。

ただし現状ではペットフードの原料や製品のメーカーによる自主検査以上のものは行われていないはずで、今後また同様の事例が起こることは国産・海外品問わず十分ありえるため、買ってきたフードの管理(人間と同じ器は基本的に使わないこと、フードを触ったら手を洗うこと…生食でも同じ)とロット表示の保管だけはきちんとしておいた方が安全だと思います。

  • 減毒/除去と家庭で気をつけること

食品中では食品成分(マトリックス)により非常に安定であるとされている。加熱しても残存率80%になればいいほう。
リコール届けが出たような汚染食品(ペットフードに限らず)が家にあれば、袋に入れて密封するのが一番安全と思う。くれぐれも匂ったり舐めたり、袋が膨らむのが嵩張ってやだからといって袋を押してガス抜きをしないように。
器具については、衛生系分析者のマニュアルみたいなものである『衛生試験法注解』(金原出版・2005)に

皮膚などに付着させた場合は、ただちに0.1〜0.5%のNaClO溶液(注:次亜塩素酸ナトリウム、いわゆるハイター、次亜ソー)で洗い、次いで石鹸、水で洗浄する。実験に使用した器具類は0.5〜1%のNaClO溶液に3時間以上浸して毒素を分解してから洗浄すること。

と書いてあるので、もし回収ロットのものが手元にあればこれを参考にするとよいかもしれない。コーネル大のニュース詳細では、下から2つ目のパラグラフ終わりに「木製のコンテナは破壊せよ(should be destroyed)」と書いてあるが、破壊してしまうと飛散する気がするので袋に入れて密封後捨てましょう。(destroyで単純に捨てる、のことだと思うけど念のため)

参考サイト
東京都健康安全研究センター
IARC評価(英語)
http://chemfinder.cambridgesoft.com/result.asp?mol_rel_id=1162-65-8:ChemfinderでのAFB1化合物情報(英語)

*1:International Agency for Reserch on Cancer:WHOの国際がん研究機関

*2:厚生労働省 輸入食品監視業務HP食品衛生法違反事例に実際にアウトになったものがリストアップされている

*3:食品と飼料に関する早期警戒システム:Rapid Alert System for Food and feed