iPS細胞樹立と適切なレギュレーションのあり方とロビー活動について。


一昨日だらだらテレビを見ていたら、偶然報道ステーションで山中教授のニュースを見て「やべえ!すげえ!」連呼していたのですが、そういうウラがあったのですね(ウラってなんだ)
てかテレ朝、「世界初の発見」って言っただろ。樹立だから。


ところで、彼のTimesのインタビュー内容が(id:o-kojo2さん邦訳素敵)非常にかっこいいのです。

日本の幹細胞研究に対する政府の態度には2つ大きな問題がある。まず、一つの幹細胞に関する実験のたびに500ページもの書類3部を提出しなければならない。これを書くのに1カ月、さらに政府の審査に1カ月、これでは英国のライバルがその間10回以上実験できてしまう。本気で競争しようと思ったら、研究者を一人首にして代わりに事務員を2人雇わなければならない。だからほかの研究者が、公務員仕事の代わりに実験に集中できるよう、幹細胞を人工的に作る方法を見つけたんだ。

京大の山中伸弥教授かっこよす - おこじょの日記">京大の山中伸弥教授かっこよす - おこじょの日記

http://d.hatena.ne.jp/o-kojo2/20071121#p1


しかし、はてブが「官僚クソ!」みたいな流れになっててちょっとまいのりしいな感じがしたのですが*1、問題は「だから官僚は能無しなんだよ!」っていえるほど簡単なことじゃないんじゃないでしょうか。
現実として、幹細胞となってくると倫理面の問題があるので、インフォームド・コンセントだとかの確認が必要だし、当然それに付随して情報管理のチェック、あるいは一般の研究と同じく、研究員の安全衛生は大丈夫か、論文捏造はできないかといった研究室の運営上の部分や、研究資金の管理、科研費ドロしてないかといった経営的な部分の確認は誰かがする必要が絶対にある訳ですよね。(シロート考えなのでもっとチェックポイントはあるはず)


そこをふまえた上で、「じゃあ500p*3の書類はどのくらいの分量が妥当なのか」といった落としどころを適切に決める機構が存在していないのがもうよろしくない。断じてよろしくないのです。
障壁をあまり高くしすぎると「うちの金自由に使ってやってくれていいよ、ただし教祖のクローン作ってね」っていうどっかの宗教団体とかが寄ってきたりしたらどうするんだろう、といらぬ心配までしてしまうのです。<先日NHKでヤクザマネーに吸い寄せられるベンチャー企業経営者とか見たもので



そんなことをもやもや考えていたら
科学・技術は日本の生命線…のはずだけど - 赤の女王とお茶を http://d.hatena.ne.jp/sivad/20071121/p1

なぜならば、ここから先は生命科学内の各分野はもちろん、医学、薬学、化学、工学そして経営や法律政策まであらゆる分野の連携にかかっているからです。理系も文系もない。日本が最も苦手とする、そしてこれまで何度となく失敗してきたやり方ですが、そろそろマジメに考えたほうがいい。

http://d.hatena.ne.jp/sivad/20071121/p1


というのを見て溜飲を下げた訳です。


うちの食品分析分野でも、こないだ行政から出たガイドライン(新しい試験方法を作ったり、厚生労働省通知のメソッドを改変した場合にそれが本当にちゃんと分析できているかの確認方法)をめぐって、中小の現場的にはルーチンやりながらこんなの対応できなくね?とオロオロしているのですが。*2
下手したら公的責任の大きい公益法人が開発している間に「うちこれしかできませーん」っていう分析業者が幅をきかせることになるんじゃないかなあとか嫌な予感までするのはネガティブすぎますかね。


結局どうも科学とか技術とかの分野において、消費におけるユーザサイドまでにメーカーテストをさせているくらいの横暴がまかり通ってるんじゃないのかな、という気がいたします。
例えば、車を買った時に時間降水量30mmのところを150km/hでハンドル切りながらブレーキかけてスリップせずに止まれるかを全ての購入者にテストさせるような感じでしょうか。
それに対して、「いやいや、とりあえず全部のランプ問題なくついて、冷却水もオイルも入ってて、ちょっと動いてみてブレーキ効けばとりあえず運転免許持ってる人間が制限速度とか守って走る分には大丈夫じゃないの?」っていうシステムが存在しないし、下手に言うと潰される
HACCPにおけるCCP(重要管理点)みたいな部分を社会、あるいは分野ごとに確立して共有できないものでしょうかねえ。


とかそんなことをつらつら考えていたので、さっきid:sivadさんのBTJジャーナルの文章読んでAAASウラヤマシスと激しく思いました。
ロビー団体欲しいなあ。行政にフィードバックしてえなあ。


とにかく、原則を振りかざしてリソースは投下せず、実際の運用はそれぞれまかせ、問題がでたらそこの責任ってそれ何てSIerよ?状態がいろんな分野にあって、それに現場から折衝するシステムがない。問題を現場が抱え込まざるをえないから、下手な人はダメになるし、ちょっと上手な人は賞味期限とか耐震強度の偽装みたいなことをして、一番上手な人はできることしかしない、というセカイになってしまうんじゃないでしょうか。*3


「全部きちんとヤレ!」って言うのって、結局「何もしなくていい!」と同義なんじゃないかと思える今日この頃。
いっぺん焼け野原になればいいんじゃね?って思うことが最近大杉。シニカルなの嫌いだったのに…orz

追記

id:uneyamaさんが実際のレギュレーションについて
詳細なエントリを書かれてました。
いつも勉強になるなあ(感嘆)


鷲田さんの意見というのも読みたいのですけど、どこかわからない…

*1:なんというか、官僚もそれを批判する人もお互いに原理原則にしがみつきすぎてんじゃないですかねえ。

*2:つか大体よぉ、通知の方法はそのままだと脆弱すぎるし、てかそもそも通知とか告示の分析法だって誤字脱字しょっちゅうなのなんとかしてくんね?とかも思うのですが。

*3:病院は原則受け入れよ。聖地・福島のニュース - NATROMの日記 http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20071120#p1 も関連して