混入濃度キター!

ギョーザ被害、殺虫剤は異常な高濃度・検疫基準の100倍超す


 中国製冷凍ギョーザによる中毒問題で、千葉市の「コープ花見川店」で昨年末に購入されたギョーザから、濃度130PPMの有機リン系殺虫剤メタミドホスが検出されたことが1日、分かった。生活協同組合連合会コープネット事業連合さいたま市)が外部の検査機関に検査を依頼して判明した。

http://www.nikkei.co.jp/news/main/20080201AT1G0101K01022008.html


NIKKEINETで濃度報道ありました。ppmが大文字表記なのはご愛嬌。
さっきさくっとググったところ、メタミドホスのNOAEL(無毒性量:ぎりぎり「毒」にはならない量)は0.03-0.04mg/体重kg/dayだそうで*1体重60kgの人を仮定した場合、0.03mg×60kg=1.8mg。
<注:NOAEL間違ってました…0.3mg/kgという指摘。なので以下の計算は頭の中で補正してください orz >



NOAELはあくまで敷居となる数値なので(たぶんコリンエステラーゼという酵素の活性が下がるかどうかのぎりぎりの量)、大の大人が倒れるほどであるなら、どれだけ厳しく見積もってもそこからさらに数倍くらいは多めに摂取をする必要があります。
用量-反応曲線*2がどうなのかわからないのでここらへんはなんともなんですが、仮に危篤域をNOAELの10倍とすれば*318mgの摂取を必要とします。
餃子が一個15gとすれば、検出量の130ppmは130μg/gなので、0.13mg/gと同じで、一個あたりのメタミドホス量は0.13×15=1.95mgなので、報道されているような、「1個2個食べて即昏倒する」事態になるほどの量なのかな、という感じがしないでもない。
まあ、感じでしかないのですが。


ちなみに通常の残留検査の基準値は、NOAELからさらに100倍程度厳しく設定されています。(NOAELは大体動物実験の数値なので、動物→ヒトの「種の差」が10、ヒト同士の「個人差」が10の安全係数を掛け算して100)
なので判りやすく書くと、


今回の汚染量>>…>>NOAEL>>>>…>>>>たまに基準を超えて話題になる量>残留基準>>普通の野菜の残留値



ただ、その分析をした時に餃子を10個まとめてmixして検査したとして、汚染されていたのが1個だけだった場合は単純計算で10倍に希釈されたことになって見かけの濃度は下がりますので、その場合は同じパッケージのものを食べて、非汚染の餃子を食べた人は大丈夫だけど、汚染されている餃子一個食べた人は危篤という今回の事態も考え得ます。
餡とか打ち粉とか混ざっているものや混ざりやすいものの場合はどうやっても拡散してしまうので、そこまで「尖がった」汚染は考えにくいんですよね…
ま、当然原材料由来の残留農薬ではありえない結果です。正直同じ混入量の汚染であれば白菜や小麦粉に残留しててくれた方が危害という点では誰も被害なく、というか誰も気付かずにすんだはずなんですが。


あと、この濃度で非意図的混入がおこっていたとすれば、現地工場の作業員は必ず暴露しているはずなので必ず体調を崩している人がいるはずです。そこらは立ち入り調査で明らかになるでしょうけど。

その他感じたこと。

  • テレ朝報道でメタミドホスを「特定の研究機関だけが保有」みたいな言い方してて「おぉ、うちの職場はトクテイノケンキューキカンというそんなカッコイイ組織なのか!」とか思った。実態は悪のそsうわだれだおまえやめrわわじぇじゃ;jf;ふじこえわb
  • ホウレンソウのクロルピリホスの残留事例とは全く異なるケースなのでいい加減に農民連の方とかを呼ばずに、科捜研とかの鑑識系の知識持ってる人呼んだ方がいいと思います(夜のzeroでは出てた)
  • メタミドホスの試薬を映すのが流行ってますが、Riedel De HaënかDr. Ehrenstorfer(両方ともドイツのメーカー。国内では日本の試薬会社が代理店になって販売してる)製のばっかり出てうちの職場にあるような和光純薬とかのが出てこないのってやっぱり国内の可能性を否定した印象つけたいのかなとかちょっと思ってみたり。
  • 表示ウォッチャーの垣田さんが朝「とにかくメーカーは一刻も早く検査をして下さい。メタミドホスだけで良いんです!」と力説していましたが、この人はやっぱり表示だけで検査のことは明るくないのだなと思った。通常実施されているルーチン検査では、サンプルは殆ど加工されていない農畜水産物ばかりなので、どこの検査機関も加工食品、それも最終形態品の農薬検査なんてしたことないので「この検査結果は本当に正しい数値を出しているか?」「この餃子で正しい結果が出たからといって、あの餃子でもその餃子でも正しい結果が出るのか?」といった検査工程や条件の確認(バリデーションといいます)作業が必要です。いやね、数値出すだけならやれと言われればできるんですけど。ここらへん、垣田さん以外でも大学の人とかって全然わかってないんですよね。こないだの食品衛生学会でもぼやいてる方おられましたが。ていうかメーカーも当然動いてて問い合わせはじゃんじゃん来るし、各検査機関の担当者はあれからうちに帰れてない人も多いと思いますけど誰も評価してくれてないのでお願いですから皆さんせめてご自愛ください。
  • 正直特需っぽい検査業界ですが「農薬の検査してください」「安全性証明して下さい」という問い合わせに頭を悩ませていると思います。農薬といっても何百項目あって、検査方法も色々あるし。安全性証明?それ悪魔の証明って言うんだよwみたいな。
  • 昨日のNHK9時のニュースで双日とかメーカーさんの担当者が出てきて件の工場の衛生状態について説明してて、個人的には「正直国内の地方中小工場よりきっちりしてるかも」って思った(逆に厳しすぎたのかもしれん)。でも直後に中国事情に詳しいとかいう人(大学の助教さん)が「中国では一般的に管理が甘く…」ってそれどんな藁人形ですか。
  • さっきFNNのニュースで「工場の視察でメタミドホスは見つからなかったが、元従業員の話では工場内でねずみ取りのテープを使用したことがあり…」って言ってた。どないしろと。餃子にねずみの毛や糞が入ってて騒がない消費者ばっかりならそれも使わないでいけるだろうけどね。
  • メディアの人は濃い薄いどころか、「濃度」と「量」も理解できてないっぽい
  • 中国の質検総局の検査で検出しなかったときに「中国で検査したんでしょ。出ないよw」みたいな反応がお約束とは言え出てたのがなんというか残念。(結局東京都でも出なかった)実際のところ質検総局のレベルがどうかはわからないけど、否定する材料は「中国だから」ではなく例えばISO17025とかGLPなんかの国際認証基準とかで判断してくれないと世界中の分析屋が涙目です。
  • JTフーズの国内工場品とかも撤去が相次いで、まじめに作ってた提携工場の中の人とかスーパー行ったらショックだろうなあ、カワイソスと思った。冷凍品だからほとぼりが冷めたころにバックヤードから出して並べれば済むとはいえ。
  • 店頭張り紙の「安全が確認されるまで販売を中止します」ってほんとは「皆さんが忘れるまで」だと思いますけど。安全証明なんて遺伝子組み換え食品はともかくスーパーの食品全部できてないぞ。

なんか納得できたblogはこちら→農家こうめのワイン

ところで残留農薬の検査ですが、一般の方はこれがどのように行われるか知っていますか?どこかの大学の研究室に食品を持ち込めば出来るんじゃないか、程度の感覚ではないかと思います。検査自体も、食品を何かの機械に押し込んでスイッチを押せば数分でピッと出てくるとか・・・そんなものではないです。
 自分も数はうろ覚えなのですが、実は残留農薬検査が出来る公的機関は日本全国でも十余りしかありません。普通の大学や保健所に持ち込んでも出来ません。もともと機関の数が少ない上に、最近は安心にうるさい食品事情の中、残留農薬検査を依頼する業者が増えていて検査機関はいつも予約でいっぱいいっぱい。普通に申し込んだ場合、結果が出るのに一ヶ月かかるなんて事はざらなのです。

http://ameblo.jp/vin/entry-10069459117.html


一応勝手に補足させていただくと、大学の研究室でも機械(ガスクロマトグラフGC)さえあればメタミドホスの分析自体はできます。数値は出るという意味で。でもそれは、たとえばコンロと包丁と食材があれば料理人になれるとか、電卓があれば会計士になれるという次元の話なんですよね。
上にも書きましたが、農薬検査は大体野菜そのものを対象としてきたために加工食品を分析する際のノウハウがあまりありません。分析で重要になってくるのは機械にかけるより前の精製段階、つまり「いかに測定したい物質だけにするか」という点です。これが甘いと他の成分(農薬や添加物だけでなくニラの組織だったり豚肉の成分だったりもうありとあらゆるモノですが)にも機械が反応してしまって正しい結果が出なかったりして、これをいかにかわすかという部分が肝心になってきます。分析ごっこだったら餃子をすりつぶしてその汁を機械に注入すればよいのですが、実際にやってしまうとその機械はたぶん二度と使えなくなります(笑)
ただ実際に分析ができるところはもっとあります。各都道府県・指定都市では地方衛生研究所がありますし、メーカー・流通の検査センターもあります。公的機関(登録検査機関について・厚生労働省)だけができるわけでもないですが、結果を証明として信頼して使えるかどうかという条件を設定されているという違いがあるくらいでしょうか。
登録検査機関リストも公開されていますが、理化学検査の、しかも農薬検査までやってるところは確かにあまりないでしょうね。


検疫所とかにも取材入ってますが、どこかの報道機関がきちんと試料採取→前処理→精製→測定→解析までちゃんと順を追って説明してくれたら惚れるのにと思ってるわたくしですた。

*1:http://www.inchem.org/documents/jmpr/jmpmono/v90pr11.htm

*2:どれだけの量を摂ればどれだけの反応が出るかのグラフ。だいたい山の裾野から山の頂上までを横から見たような形

*3:10倍で危篤になるようなら散布者の健康被害が大変なことになるので農薬として商品化されることはないですが、あえて厳し目にしてみました